現代社会では、過重労働や心身の健康問題に端を発する意欲低下がとりざたされています。
厚生労働省が公表した「平成23年就労条件総合調査結果の概況」によると、
平成22年に企業の正社員らが取得した年次有給休暇の取得率は半分未満の48.1%。
取得はしても、実は風邪等の病欠を有休に振り替えている、という使い方が多いのが実情のようですが、
皆さんが会社をお休みする理由って何ですか?
前回は、写経プロジェクトに従事した官人である「写経生」の仕事ぶりをご紹介しましたが、
今回はまず、彼らの休日・休暇に目を向けてみることにしましょう。
「大日本古文書」第十巻より…… 。
久米熊鷹謹解 申依病不参向事。
右、以十月 廿 五日得腹病、須臾間無休息時、仍是不得 参向、今病状録、以謹申、
天平廿年十一月廿日意訳:
私、久米熊鷹は、病気のため職場に向かえないことを謹んで申し上げます。
というのも、十月二十五日から腹痛で、少しの間も仕事が休めなかったので、無理がたたって、出勤できません。
病状を記録して、謹んで申し上げます。
「大日本古文書」第十七巻より…… 。
高大麻呂解 申請暇日事 合五箇日
右、依帙訖、所 請如件、 仍注事状、 以解
宝亀 二年三月卅日意訳:
私、高大麻呂は、休日を謹んで申請いたします。合計五日間です。
というのも、写経の仕事が十巻分終わりました。
キリがいいので、右のように休日を請求いたします。
「大日本古文書」第六巻より…… 。
八木宮主解 申請暇日事 合五箇日
右、為洗衣服、所請如件、以解
宝亀 二年三月十一日/p>
意訳:
私、八木宮主は、休日を謹んで申請いたします。合計五日間です。
というのも、衣服を洗濯するために、右のように休日を請求いたします。
現存する古代官人(現存するのは写経生のもののみ)の休暇願・欠勤届全 248件中、
一番多い理由は、「本人や家族の病気」で全体の約4割。
以下、「仕事のキリがいいから」「神事・仏事」「弔事」「衣服の洗濯」「私用」という理由が続きます。
「衣服の洗濯」(!)以外は、今とそう変わらない気がしますね(笑)。
にしても、病気が半数近くというのは、多過ぎやしないか?
ちなみに、古代の休暇願等は直属の上司に対して行なわれ、
上司が許可をし、その申請書を綴って記録しました。上司のマネジメントが機能していたようです。
そんな「写経生」たちが提出した、面白い文書が「正倉院文書」に遺されています。
「大日本古文書」第二十四巻より…。
写経司解案
一切写経司解 申司内穏便事
一、 召経師且停事(中略)
一、 欲換浄衣事(中略)
一、 経カン師暇休事(中略)
一、 装并校生麁悪事(中略)
一、 請経師等薬分酒事(中略)
一、 経師等毎日麦給事(以下略)意訳:
写経司が出す上申書(案)
この一切の内容は、部外秘に願います。
一、写経生の募集を停止して欲しいこと(※人が多いと賃金配分が減るから)。
一、(以前に支給された) 浄 衣を新しい 浄衣に替えて欲しいこと。
一、(毎月五日間は)休暇が欲しいこと。
一、食事が粗悪であること(黒飯よりましなものにして欲しい)。
一、薬としての酒を(三日に一度は)支給して欲しいこと。
一、毎日麦飯を支給して欲しいこと。)
これは、劣悪な労働条件や職場環境に不満を募らせた写経生たちが待遇改善を要求したもので、その要求は六箇条に及びます。
古代における集団的な待遇改善の要求というわけです。
確かに、ここに要求されている内容を見ると、前述の「休暇願い」の理由にも納得がいきます。
粗悪な食事、不潔な衣服、限られた人員。そりゃあ、病気にもなるわ…… 。
にしても、「 部外秘に願います」というくだりがなんとも人間臭くて、私は心引かれる文書です(苦笑)。
現代に話を戻しましょう。
企業組織の再編や人事労務管理の個別化等に伴い、
労働関係に関する事項についての個々の労働者と企業との間の紛争(個別労働紛争)は増加の一途を辿っています。
出典:厚生労働省「平成23年度個別労働紛争解決制度施行状況」
仕事の成果のためには、本人の能力と 熱意、そして正しい考え方が必要ですが、
本人の職場や労働条件に対する何らかの「欲求不満」は、熱意を軽減させ、正常な判断機能を停止させかねません。
御社では、労働問題を提起しやすい風土や雰囲気がありますか。
よもや「部外秘に」なんて添えなければならない状況ではないです?